うつ病について

現代において、10人に1人がうつ病に罹患するといわれており、ごくありふれた病気となっています。下に示すのが、うつ病の診断基準です(ICD-10)。

診察では、上記のような内容の聞き取りのほか、患者さんの話すスピードや反応の様子、表情、周囲のサポート環境などを総合的に考えて診断・治療します。

抗うつ薬や睡眠薬、抗不安薬といった飲み薬を用いるべきか、一時的に休職などによる療養が必要か、といったことも、患者さん本人の意向を聞きながら、専門的なアドバイスを行います。

また、うつ病では判断力が落ちていることが多いため、病状の悪いタイミングで大きな決断(退職、離婚など)をしないことが原則とされています。職場環境がストレスの原因であったとしても、一定期間の休職によって症状が改善することもあり、後で後悔しないためにも、ひとまず今の職場に籍を置いておくことをお勧めすることが多いです。(これも個別の状況によります)

医師の診断書のもと、病気で休職した場合、会社の健康保険に加入していれば、傷病手当金(月給の2/3程度)の支給がある場合があります。※詳しくは会社の規定のご確認や、ご加入の保険組合へお問い合わせください。

  • うつ病の経過

うつ病の治療は調子のよいときと悪いときを繰り返しながら、徐々に改善に向かうということが多いです。一般的には、症状の重い急性期から、回復期を経て、再発予防期寛解(心の病気が落ち着くこと)となります。

薬を使うことで、「うつ病がなくなる」わけではなく、気分の落ち込みを軽くしたり、落ち込む期間を短くする効果があります。また、再発することの多い病気であり、うつ状態が改善した後も、再発予防のために当面の間服薬を継続することが望ましいです。再発防止のための維持治療をすることが望ましいとされる期間も、初回の再発と2回目以後の再発では異なり、また服薬に関するほかの事情(妊娠予定がある、大きなストレスを抱えているなど)を考慮して、相談しながらの個別対応となります。

不眠に対して睡眠薬を使用したり、強い不安感に対して抗不安薬を一時的に併用したり、仕事や家庭の負担を軽減したりすることで、脳が十分に休息することができ、苦しい時期を乗り越えやすくなります。

また、自殺を考えたり、実際に行動に移すような危険がある場合は、早めに受診していただくほか、個別の判断となりますが、安全確保のため、入院設備のある病院をご紹介させていただくことがあります。

  • うつ病は甘え?病気?

うつ病に限らず、心の病気、精神疾患には生物・心理・社会モデルという考え方があります。

「生物」とは、臓器としての脳が生まれつきタフか、そうでないかということです。祖父母や親からの遺伝の影響で、うつ病になりやすい人がいます。

「心理」とは、その人の考え方の癖であったり(自分を責めやすいなど)、得意不得意の偏りであったり、今まで育ってきた環境によって培われた性格や生まれつきの性格も含まれます。

「社会」とは、その人を取り巻く環境です。ストレスの多い職場や、家庭環境、家事育児のサポートが少ない、家族の介護が大変、などが含まれます。

これらの組み合わせによってうつ病などの心の病気、精神疾患は発症すると言われています。つまり、同じように大変な仕事環境、家庭環境でも、うつ病を発症する人としない人がいますし、生物・心理的にうつ病になりにくいタイプであっても、過剰なストレスを抱えると、誰しもうつ病などの心の病気を発症するということです。「私も過去にこれだけ大変な思いをしても病院に行かず克服したのだから、きっとあなたも克服できるはず」という考えが「甘え」という言葉を生むとするなら、生物・心理・社会モデルのうち、生物・心理の要素を無視していることになります。

また、うつ病の治療も、ただ薬によって脳を正常な状態に戻すだけではなく、心理・社会的側面からも考えていく必要があります。

「もしかして、うつ病かもしれない」と思った早めのタイミングでの早期治療が大切です。治療をしなくても自然に軽快することもありますが、治療をすることで、治療をしなかった場合と比較して軽い症状で済むことがあります。

こんなことで相談していいのだろうか?と思われるような、些細な症状でもお気軽にご相談ください。